問題提起
Claude Codeを主軸に置いて業務するようになってから数ヶ月が経ち、アウトプットの量は今までの数倍になったように感じる。しかし、アウトプットは媒介変数に過ぎず、本当に重要なのはアウトカムだ。アウトカムを出す最も効率の良い手段はなんだろうか?
現代における主流のマネジメント教養は、人間ひとりひとりに意味があるとする人間観を前提に組み立てられてきた。一方で技術の発展に伴い、産業資本としてのAIは実運用の段階に到達し、ホワイトカラー労働職の一部はすでに代替が始まっている。経営学の教科書にある過去のマネジメント教養を利用することは、本当にアウトカムの向上につながるのだろうか?AIが存在する前提で、AIを最も上手く使うために必要な労働価値観はいかなるものであるだろうか?
カーネギー主義
20世紀初頭、フレデリック・テイラーの科学的管理法への反動として、エルトン・メイヨーらの人間関係論が生まれた。生産性を決めているのは物理条件ではなく、心理的・社会的要因であると研究者は結論づけた。学術潮流としての人間関係論を大衆向けに翻訳した延長線上に、デール・カーネギーの一連の著作が立つ。カーネギーの思想には「すべての人間を尊重するべきである」とする考えが根底にある。20世紀後半のマネジメント教養はカーネギーから派生した。
パーキンソンの法則
人間関係論とカーネギーは、人間ひとりひとりに意味があると前提する。だがシリル・パーキンソンは『パーキンソンの法則』(1957) で、人間組織がパーキンソンの法則に従って自己増殖する事実を示した。
- 第一法則:「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」
- 第二法則:「支出の額は、収入の額に達するまで膨張する」
もし人間ひとりひとりに本当に意味があるならば、人間組織が無目的に肥大する事象は起きないはずだ。カーネギー主義の人間観は、組織を肥らせる副作用を持っている。
マスクのAlgorithm 5 Steps
アンチ・カーネギーの筆頭がイーロン・マスクであり、人間組織を機械の設計と同じ第一原理で扱う。マスクの方法論はAlgorithm 5 Stepsとして知られる。
- 要件を疑え:すべての要件には責任者の名前を紐付け、誰がいつ、なぜ要求したのかを問う
- 削れ:あらゆる部品・工程を可能な限り削る。削りすぎたら戻せばよい
- 簡素化せよ:残った要件を最小構成に再設計する
- 加速せよ:サイクル時間を短縮する
- 自動化せよ:人手に頼る工程を機械に置き換える
人間組織が従来持っている肥大的傾向に対するアンチテーゼが、マスクのAlgorithm 5 Stepsだ。
現代への適用
マスクの考え方は、AIの存在を前提とする組織に対して相性が良いのではないかと最近思うようになった。
- 業務プロセスをAIネイティブに最適化するためには、リスペクトの逆が必要だ。仕事は無意味かもしれないし、最適なやり方ではないかもしれない。多くの場合、要件は間違いなく馬鹿げている1 。
- パーキンソンの第一法則により、仕事の量は完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する。人々は自身の仕事を生み出す(生み出された仕事は無意味であることが多い)か、完成のために与えられた時間を満たすまで引き延ばす。AIにより効率化されたとしても、無意味な仕事を生み出されては意味がない。必要なのはアウトカムであり、アウトプットは媒介変数に過ぎない。
- 無意味なワークフローをAI Nativeにしても意味がない。無意味なものは削るべきだし、存在するだけで最適化の邪魔になる。
- 既存業務を最適化するためには、要件を疑い、削り、簡素化し、加速して自動化するプロセスが必要である。Algorithm 5 Stepsに他ならない。
AIが存在する前提で最適な組織論は、カーネギー主義の対極にあるかもしれない。我々はどこまで「リスペクトの逆」を採れるだろうか?
Footnotes
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The requirements are definitely dumb; Starbase Tour and Interview with Elon Musk | Everyday Astronaut ↩