はじめに

ホワイトカラーの仕事において必要なのは「AIの導入」ではなく、「AIが存在することを前提とした、ワークフローの再設計」であるのだろう。電子計算機の導入がComputerの仕事を消し去った上で新たなホワイトカラー職を生み出したのと同様だ。必要なのは根本的なスクラップ・アンド・ビルドであり、アーティファクトとワークフロー、ソフトな組織論の再編成だ。

実際に自分の手掌内の仕事でスクラップ・アンド・ビルドを行ってみた結果、我々は賢くある必要があると思うようになった。構造的・非構造的を問わず、存在している問題を理解し、問題を解くためのプランを構築する知能が必要が我々には必要だ(cf : Planモードに入る前に:ポリアの『いかにして問題をとくか』を読む)。

つまり、知識のインプットの重要性は変わっていないどころか、上昇してすらいる。我々はドメイン知識のない問題を理解することはできない。ドメイン知識の存在は計画立案をスムーズにし、計画のフィジビリティを向上させる。車輪の再発明は(多くの場合)問題の解決には役立たない。

やりたいこと

AIが存在する前提で、「知識を最速でインプットする手段」を練り上げたいと思った。過去の受験勉強のやり方やら社会人として知識をインプットしてきた経験やらを練り混ぜ、最速の知識導入方法を探りたい。

簿記三級が対象として良さそうだ。

なぜ簿記三級か?

簿記3級を選んだ理由は3つある。

  1. 仕事の関係。最近経営企画のデータエンジニアリングの仕事をするようになった。相手方と話す際の前提知識を持っておきたい。
  2. 過去の経験。以前の仕事がうまくいかなかった数多くの理由のうち一つは、財務上のミスだったのではないかと考えている。過去の経験を踏まえ、同じミスをしないように(あるいはミスに遭遇した際に無力にならないように)知識を入れておきたい。
  3. 勉強のやり方が程度確立されている。日本には簿記3級の教科書はたくさんある。例えば「Text-to-SQLにおけるベスト・プラクティスの探究」のような分野よりは扱いやすい。
  4. 対象として面白いから。複式簿記は美しい。ゲーテも著作の登場人物に言わせてたらしい。ま…まああんたほどの実力者がそういうのなら………

まず試験日を登録し、勉強を始めてみた。

具体的な使い方

学習計画を立てさせる

まず試験日をGoogle Calenderに登録し、Claude Codeに「40日間の学習計画を立ててくれ」と頼んだ。インプットとして与えたのは試験日・試験構成(第1問: 仕訳45点、第2問: 補助簿20点、第3問: 決算35点)・1日30分の勉強時間の制約だけだ。

Claude Codeが出力した計画は4フェーズ構成になった:

  • Phase 1(10日): 仕訳200問を1日20問ペースで消化 — 第1問の45点を確実な得点源にする
  • Phase 2(10日): 補助簿・勘定記入・伝票 — 第2問対策
  • Phase 3(10日): 決算整理仕訳5パターン(売上原価、減価償却、貸倒引当金、経過勘定、現金過不足)
  • Phase 4(7日): 模試・総仕上げ

この計画自体に価値はない。価値があったのは、試験構成の配点を理解した上で、どこに時間を割くべきかの判断ができたことだ。「第1問の45点を確実な得点源にする」判断は人間が考えても同じ結論になるが、考える時間を「計画の構築」ではなく「計画の検証」に使えるのが大きい。

教科書の内容をインプットする資料を作る

Youtubeやダウンロードした教科書のPDFを元に、Claude Codeに「講義内容を簿記の教科書としてMarkdownにまとめてくれ」と指示した。17章分、全17ファイルが生成された。

textbook/
├── 01-入門編.md        # 経理の6ステップ、仕訳の基本
├── 02-商品売買.md      # 三分法、返品、付随費用
├── ...
├── 14-見越し・繰延べ.md # 経過勘定
├── 15-帳簿.md          # 補助簿の種類
├── 16-伝票.md          # 3伝票制・5伝票制
└── 17-勘定科目一覧.md   # B/S・P/L科目の一覧

実際はテキストを読むだけでは頭に入らないので、視覚的に構造化された資料が欲しかった。最初はGoogle Slideで作ろうとしたが、レイアウトの崩れがよく発生したため、Marpを使ってスライドを作成する方針にした。手順は以下の通り:

  1. Claude Codeにテキストのmdファイルを読ませる
  2. 「この内容を5分で説明できるMarpスライドにして」と指示する
  3. 生成されたスライドをブラウザでプレビュー

カスタムCSSテーマも作らせた。借方が青、貸方が赤で色分けされ、仕訳テーブルは借方・貸方が視覚的に区別できる。フロー図はASCIIアートではなくHTMLのdivで描画させた。MarpはHTMLタグを直接埋め込めるからだ。

実際には、スライドだけでみてもあまり意味がよく分からない。楽しくもない。講義スクリプトをClaude Codeに書かせ、Gemini 2.5 Pro TTS APIで音声化した。スクリプトはスライドの内容を話し言葉に変換したものだ。例えば入門編のスクリプトはこう始まる:

「簿記3級 入門編、Part 1『経理の基本と仕訳のしくみ』。このパートでは、経理業務の全体像をつかんでから、簿記の核心である『仕訳』のしくみを学びます。」

「ですます調で、専門用語は初出時に補足説明を入れて」と指示を実施し、Claude Codeが10スライド分の講義スクリプトを一気に生成する。スクリプトをGemini TTSに渡すと、約5分のWAVファイルが出力される。

人間はスライドを見ながら音声を聞いて、教科書の内容をインプットする。

過去問をターミナルで勉強する

仕訳問題を繰り返し解くには、問題を構造化されたデータとして持つ必要がある。Claude Codeに問題集を渡し、合計200問、15トピック(現金預金、商品売買、固定資産、経過勘定など)に分類された問題セットができた。

各問題は以下の構造を持つ:

{
  text: "商品200,000円を売上、クレジット払い。手数料率5%",
  topic: "商品売買",
  entries: [
    { side: "debit", account: "クレジット売掛金", amount: 190000 },
    { side: "debit", account: "支払手数料", amount: 10000 },
    { side: "credit", account: "売上", amount: 200000 }
  ]
}

問題データをCloudflare D1に投入し、HonoでAPIを立てた。解答記録もD1に保存し、あとで振り返ることができるようにする。

Claude CodeのAskUserQuestionToolを使い、APIから取得した問題を選択肢形式で出題する。

実際の出題画面はこんな感じだ:

Image from Gyazo

問題を解くためにブラウザを開く必要はないし、解答記録は保存される。

おわりに

このやり方で本当に合っているのかな…